M&Aプロセス全体像 — ティーザーからPMIまで
M&Aはいくつかの段階を順番に進む。各段階の成果物と目的を理解することで、交渉の主導権を握ることができる。
標準フロー
ティーザー → NDA → IM → LOI → MOU → DD → SPA/DA → クロージング → PMI
1. ティーザー
社名を伏せた1〜2枚の匿名概要書である。買い手候補の関心を打診する目的で使われ、関心が示されればNDA締結に進む。
2. NDA(秘密保持契約)
情報開示の前提として必ず締結する契約である。一方向(売主→買主のみを保護)か双方向かの別、契約期間、契約終了後も効力が残る条項(残存条項)を確認する必要がある。
3. IM(情報開示書類)
事業・財務・組織・技術・市場の詳細をまとめた資料であり、通常20〜60ページに及ぶ。買主がLOIを検討する際の基礎資料となる。
4. LOI(意向表明書)
買主が「この価格・この条件の範囲で買いたい」と意思表示する書面である。通常は法的拘束力を持たないが、独占交渉権(一定期間、他の買主候補と交渉しないとする合意)を伴うことが多い。
補足:独占交渉権とは、一定期間、他の買い手候補との交渉を行わないとする合意であり、売主の交渉相手を1社に絞り込む効果を持つ。
5. MOU(基本合意書)
LOIよりも詳細な条件(スキーム、価格帯、スケジュール)を文書化するものである。国内実務ではLOIとMOUが同義的に使われることも多い。
6. DD(デューデリジェンス)
買主が財務・法務・事業・技術・IPの各面を精査する段階であり、通常4〜8週間を要する。
7. SPA/DA(最終契約)
- SPA(株式譲渡契約書) = 株式の譲渡に関する契約
- DA(最終契約) = 事業譲渡の場合はAPA(事業譲渡契約書)とも呼ばれる
この段階では表明保証・補償条項・競業避止義務が交渉の核心となる。
8. クロージング
対価の支払いと株式・資産の移転が完了する日である。すべての前提条件(CP=Conditions Precedent)が充足されて初めて実行できる。
補足:CPとは、独占禁止法上のクリアランスや主要顧客の同意など、クロージングの前提となる条件を指す。
9. PMI(統合後経営)
組織・システム・文化を統合するプロセスである。これに失敗するとM&Aの価値が損なわれる。人事制度・ITシステム・ブランドの統合方針はSPA締結前に設計しておくことが望ましい。
競争入札プロセス
複数の買主候補を同一のタイムラインで競わせ、条件を引き上げる手法である。売主側のFA(financial adviser=財務アドバイザー)が複数の候補に同時にティーザーを送り、入札ラウンドを設定する。
利点:価格競争によって条件が上がりやすい。
欠点:情報漏洩のリスクと、単一候補との深い関係構築が難しいこと。
FA・仲介者の役割と報酬
| 形態 | 説明 |
|---|---|
| FAアドバイザリー型 | 売主側FAと買主側FAが別々に立ち、それぞれの依頼者を代理する。利益相反が少ない |
| M&A仲介型 | 1社が売主・買主双方を仲介する。国内中小企業M&Aで一般的な形態 |
報酬はレーマン方式に基づくことが多い。取引金額に応じた料率の階段(例:5億円までは5%、5億〜10億円は4%など)を成約時の取引金額に適用して成功報酬を算出する。
補足:レーマン方式とは、米国のリーマン・ブラザーズ社が考案した報酬体系に由来する名称であり、金額が大きくなるほど料率が下がる構造を持つ。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」(無料公開)は、仲介・FAの費用感や注意点を把握するうえで有用な参考資料である。
出典・参考
- IP・法務デューデリジェンスの準備 — 関連ノート
- M&A契約の実務 — 関連ノート
- SaaSバリュエーション — 関連ノート
- スキームと税務 — 関連ノート