DDCとNDCを並べて読む
DDC(デューイ十進分類法)は1876年に米国で生まれた。NDC(日本十進分類法)は、森清(もり きよし)が1929年にDDCを「日本の知識の重心に合わせて」作り直したものである。両者を並べて読むと、文化が分類を変える瞬間が見えてくる。
第一階層の対応関係
| 番号 | DDC | NDC |
|---|---|---|
| 0 | 計算機科学・情報・総記 | 総記(情報科学・図書館・百科事典) |
| 1 | 哲学・心理学 | 哲学(哲学・心理学・倫理学・宗教) |
| 2 | 宗教 | 歴史(歴史・伝記・地理) |
| 3 | 社会科学 | 社会科学 |
| 4 | 言語 | 自然科学(数学・理学・医学) |
| 5 | 純粋科学 | 技術(工学・工業・家政学) |
| 6 | 技術 | 産業(農林水産業・商業・運輸・通信) |
| 7 | 芸術・レクリエーション | 芸術(美術・音楽・演劇・スポーツ) |
| 8 | 文学 | 言語 |
| 9 | 歴史・地理 | 文学 |
この食い違いは偶然ではない。
宗教の扱い:DDCは200番台を丸ごと宗教に充てる(キリスト教文化圏の蔵書構成を反映している)。NDCは宗教を哲学に包含し、200番台を歴史に割り当て直す。
言語と文学:DDCは4=言語・8=文学。NDCは逆転して8=言語・9=文学とする。森の初版では実際には8=文学・9=言語だったが、「文学を学ぶには言語が先」という理由で後に改訂された。
医学:DDCは610番台(技術の下)に置く。NDCは49x番台(自然科学の下)に置く。NDCは医学を応用科学ではなく純粋科学として位置づけている。
工業の独立クラス化:NDCは6=工業を独立したクラスとして設ける。DDCは380(商業)と630(農業)に分散させる。これは明治以来の産業振興という文脈を反映している。
強みと弱み
DDC
強みは世界標準であることだ。135か国・20万館の図書館が採用し、WebDeweyで継続的に更新され、桁を切り詰めることで粒度を調整できる(例:516.375 → 516)。弱みは西洋・キリスト教中心のバイアスである。宗教の200番台のうち220〜280がキリスト教、290が「それ以外全部」であり、1990年代以降強く批判されてきた。もう一つの弱みは完全列挙型(enumerative=あらかじめ項目を列挙しておく方式)であることで、計算機科学は1960年代に001→004→005とつぎはぎ的に膨張した。
NDC
強みは日本の蔵書の実態に即していることだ。歴史の200番台の中では日本史(210)が、法律の320番台の中では日本法(323)が優先される構造になっている。公共図書館の99%・大学図書館の92%が採用しており(2008年調査)、国内の事実上の標準である。弱みは改訂サイクルが遅いことで、第10次改訂版は2014年にとどまり、AI・データサイエンスなどデジタル分野への対応が薄い。国外ではほとんど参照されず、国際的な互換性はDDCに及ばない。
個人知識システムへの3つの設計示唆
第一に、最上位クラスを10に絞ることは普遍的に有効である。DDC・NDCともに10という数字を堅持しており、これは人間が俯瞰できる限界を反映している。第二に、「総記」(0番台)のような逃げ道が不可欠である。情報科学・百科事典・図書館学・計算機科学はここに入り、個人の学習ノートであれば「メタ・分類・サイト運営そのもの」もこのクラスに属する。第三に、自分の文化や関心に合わせてクラスを組み替えることは正当な行為である。NDCがDDCをそのまま採用しなかったという事実そのものが、「自分のドメインに合わせて作り直してよい」という許可証になっている。ノートの重心がAIや工学にあるなら、500番台・600番台を分割してより上位の階層に引き上げる設計も正当化される。
NDCベースでtilを10クラス化するとしたら
実装ではなく思考実験として:
| 番号 | NDCの名称 | ノートへの適用案 |
|---|---|---|
| 0 | 総記 | サイト運営/メタ分類/情報整理 |
| 1 | 哲学 | 思考のうち哲学・倫理学・宗教の領域 |
| 2 | 歴史 | 技術史/伝記/歴史的背景(Gitの歴史など) |
| 3 | 社会科学 | ビジネス/組織論/経済学/政策 |
| 4 | 自然科学 | 認知科学/数学/物理学/生物学(思考のうち科学的な領域) |
| 5 | 技術 | 工学のうちコード/インフラ/CLI |
| 6 | 産業 | プロダクト/マーケティング/SEO/GEO |
| 7 | 芸術 | デザイン全般/タイポグラフィ/UI |
| 8 | 言語 | プログラミング言語/自然言語学習 |
| 9 | 文学 | 読書ノート/引用集 |
この案だけではAIの置き場所が宙に浮く。AI専用クラスを設けるか、技術(5)と総記(0)に分散するかは未解決の問いであり、別の提案文書で扱う。
出典・参考
- Wikipedia: Dewey Decimal Classification
- Wikipedia: List of Dewey Decimal classes
- Wikipedia: 日本十進分類法 — 分類表、第10次改訂版
- Wikipedia: Comparison of Dewey and Library of Congress subject classification
- Toshio Omagari, "The use of library classification schemes in Japan", Gendai no Toshokan 48(2), 2010