レアアースと南鳥島 — 日本の海底採掘とEEZ・公海
「日本もレアアースを採掘する」というニュースの全体像を、資源・場所・海の権利という3つの視点でつなげて理解するためのノートである。
レアアースとは何か
レアアース(希土類元素)とは、17種類の特殊な金属の総称である。少量で強力な磁石や高性能部品を作れるため、EV(電気自動車)のモーター、風力発電、スマートフォン、精密機器、防衛装備に不可欠な存在になっている。
補足:とりわけ重希土類(=レアアースのうち重い部類の元素)は強力な永久磁石に欠かせない。世界の生産・精製の大半を中国が握っているため、各国が「脱・中国依存」を急いでいる。これが経済安全保障の核心である。
補足:経済安全保障とは、モノやエネルギーの供給を特定の一国に握られ、いざという時に断ち切られることがないよう備えておくことを指す。
場所 — 小笠原・南鳥島の「レアアース泥」
舞台となるのは南鳥島(マーカス島)である。東京から約1,800km離れた日本最東端の島で、行政上は東京都小笠原村に属する。その周辺の海底には、レアアースを高濃度で含む「レアアース泥」が眠っている。
- 水深約6,000mの深海底に存在する。濃度は世界最高水準とみられている。
- 重要なのは、この海域が日本のEEZ(排他的経済水域)内にあるという点だ。だからこそ日本が単独で開発できる。
日本の採掘計画(最新)
国家プロジェクトであるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム=府省の枠を超えた国家プロジェクト)が主導し、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運航する地球深部探査船「ちきゅう」が実行を担う。
- 2026年1月:南鳥島沖のEEZ内で試験掘削(採掘システムの接続試験)を開始した。水深6,000mでの採掘試験は世界初である。
- 2026年2月:水深約6,000mの海底からレアアース泥の試験揚泥に成功した。
- 2027年2月(予定):1日350トンの採掘実証を目指す。南鳥島の島内に泥の脱水施設を建設する計画である。
要点は、これが日本国内でレアアースを産業化する初の試みだということだ。成功すれば、中国依存を減らす切り札になり得る。
EEZと200海里 — なぜ日本がここで採掘できるのか
海では、国の権利が及ぶ範囲が段階的に定められている(国連海洋法条約)。
| 区分 | 範囲(沿岸から) | その国の権利 |
|---|---|---|
| 領海 | 12海里(約22km) | 陸上に準じた主権が及ぶ |
| EEZ(排他的経済水域) | 200海里(約370km) | 資源(漁業・海底鉱物)の排他的開発権 |
| 公海 | EEZの外側 | いずれの国にも属さない |
補足:海里とは海上で使う距離の単位で、1海里は約1.85kmである。EEZとは、沿岸国が「漁業資源と海底資源を独占的に利用できる」海域を指す。南鳥島のような小さな一つの島でも、その周囲200海里という広大なEEZを生み出す——これが南鳥島が資源の観点で大きな重みを持つ理由である。
公海 — EEZの外側
EEZの外側、すなわち公海はどの国にも属さず、航行と漁業の自由が原則となる。さらに公海の深海底(とその資源)は「人類の共同財産」として扱われ、国際海底機構(ISA)が管理する。つまり「200海里の内側か外側か」という一点が、資源を誰が保有できるかを根本から左右する。
まとめ
レアアース(戦略物資)は、南鳥島(小笠原村)のEEZ内の海底に大量に眠っている。だからこそ日本はSIP×「ちきゅう」による世界初の深海採掘に挑み、2027年の本格実証を目指している。鍵となるのは「200海里の内側」という海のルールである。