Have I Been Pwned — 世界最大の漏洩インデックスとPwned Passwordsのプライバシー技術
Have I Been Pwned(HIBP、ハブ・アイ・ビーン・ポウンド)は、セキュリティ研究者のトロイ・ハント(Troy Hunt)が2013年12月に開設した無料サービスである。数百件の確認済みデータ漏洩(data breach=企業などのシステムから情報が流出する事故)を横断検索できるインデックスとして提供し、パスワードそのものをサーバーに送ることなく自分の情報が漏洩していないか確認できる。
HIBPとは・3種類のデータ
- 2013年12月4日、Adobeの大規模漏洩(1億5,300万件)を機に開設された。トロイ・ハントは当初、経営職の合間に技術力を保つ目的で作ったが、やがて業界標準になった。
- 従来型の漏洩は、特定の企業がハッキングされ顧客データベースが持ち出されたものを指す。各漏洩には日付・確認件数・流出したデータの種類(メール・パスワード・電話番号など)がメタデータとして付く。
- スティーラーログ(stealer log)は、感染端末で動くマルウェア(=悪意あるプログラム)が認証情報を記録したものである。企業が攻撃された証拠ではなく、マルウェアがその端末でその認証情報の入力を見たという記録にすぎない。2026年時点でHIBPは数億件のスティーラーログを取り込んでいる。
- ペーストデータは、Pastebinなどのペーストサイトに公開された認証情報を指す。
Pwned Passwordsとk-匿名性API
- HIBPのPwned Passwordsは8億5,000万件超の漏洩済みパスワードをインデックスしている。このAPIを使うと、あるパスワードが過去の漏洩に含まれていたかを確認できるが、パスワード本体をサーバーに送ることはない。
- プライバシーの仕組みはk-匿名性(k-anonymity)と呼ばれる。端末側でパスワードをSHA-1(ハッシュ関数の一種)でハッシュ化し、40文字のハッシュのうち最初の5文字だけを送信する。サーバーは一致する約478件のハッシュ後半部分をまとめて返し、端末側で自分のハッシュと照合する。パスワード本体は一度も端末の外に出ない。
- 5文字である理由は次のとおりである。16の5乗、約100万通りのプレフィックス(=先頭部分)が存在し、匿名性を保つには十分な大きさである一方(NISTの基準では、16の34乗通りの可能性の中の5文字プレフィックスだけで個人を特定することはできないとされる)、1つのバケット(まとまり)に平均850件が入る程度に絞られる。
- 規模としては、パスワードマネージャー・ブラウザ・アプリからの連携により、月20億件超のクエリ(=問い合わせ)を処理している。
主要な連携と公的機関の利用
- Firefox Monitorは、Firefoxに保存されたパスワードについて、匿名化された共有を通じてHIBPのデータを使い漏洩アラートを出す。
- 1Password Watchtowerは、漏洩済みアカウント・使い回し・弱いパスワード・パスキー未設定を、すべてHIBPのPwned Passwords経由で検出する。
- NCSC(英国国家サイバーセキュリティセンター)は、英国の.govドメインすべてをHIBP上で自動的に監視しており、新しい漏洩がインデックスされると数分以内にリアルタイムでアラートを受け取る。
- ACSC(オーストラリアサイバーセキュリティセンター)は、.gov.auドメインすべてを同様に監視する。
- FBIとNCA(米国・英国の捜査機関)は、押収した漏洩データをPwned Passwordsに提供しており、法執行機関が公開データセットに直接貢献する形になっている。
クレデンシャルスタッフィングとその重要性
- クレデンシャルスタッフィング(credential stuffing)とは、ある漏洩から得たユーザー名とパスワードの組を、他の何千ものサービスに対して大規模に自動で試す攻撃である。ハッキングの技術は不要で、リストと自動化ツールさえあれば成立する。
- この攻撃が成立するのは、多くの利用者がパスワードを複数サービスで使い回しているためである。1件の漏洩が、他の何十ものアカウントの鍵になってしまう。
- HIBPの本質的な価値は、パスワードが漏洩済みだと分かれば、悪用される前に強制的に変更させられる点にある。GitHubやOktaは、Pwned Passwords APIを使って漏洩済みと判明しているパスワードでの新規登録をブロックしている。
- 代表的なデータセットとして、Collection #1(2019年、7億7,300万件のユニークメールアドレス)とRockYou2024(2024年、約100億件のユニークな平文パスワードで史上最大)がある。
HIBPは、データ漏洩という受け身の災害を、個人・組織・政府が行動に移せる情報へと変換する。Pwned PasswordsのSHA-1プレフィックスによるk-匿名性の手法は、秘密を明かさずに、その秘密が公開データベースに含まれているかを確認できることを示す優雅な実例である。
出典・参考
- Have I Been Pwned — About — 公式サイト
- Have I Been Pwned — FAQ — 公式サイト
- Have I Been Pwned — Pwned Passwords — 公式サイト
- Troy Hunt: SHA-1 and k-Anonymity in HIBP — ブログ(創設者本人)
- Troy Hunt: Stealer Logs in HIBP — ブログ(創設者本人)
- Troy Hunt: UK and Australian Governments on HIBP — ブログ(創設者本人)
- Have I Been Pwned? — Wikipedia — 百科事典
- 1Password Watchtower × HIBP — 公式ページ
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